日記(2)

しばらくするとマイクロコンピュータを取り扱うショップが増えてきました。秋葉原の電気館にあるショップは、ほとんど販売を始めたのではないかと思います。
次の年になると、インテル社、モトローラー社などから販売されはじめた1ボードマイコンがショップの店頭に並ぶようになりました。CPU1個だけのパッケージから、ボード上にCPUやメモリー、表示用の8桁セグメントディスプレイ、8085などの入出力用LSI、16進数キーボードなどを乗せた、本当に基本的なコンピュータと呼べる仕組みのものです。
私が勤務していたオーディオメーカーも、それまでのアナログだけの時代からデジタル技術を利用した商品の開発を企画している時でしたので「デジタルとは何ぞや」ということで、盛んに社内講習会が開かれはじめた時期でもあました。
私にとってデジタルオーディオと呼ばれるものを最初に耳にしたのは、デジタル技術を活用したソニーのPCMプロセッサー(多分PCM-1だったと思います)経由で聞くクラシックでした。
その時のオーケストラは(これも多分ですがカラヤン指揮のウィーンフィルではなかったかと思います)いずれにせよ、そのオーケストラの音は大変衝撃的で背筋が凍る想いがしました。それまで普段聞いているアナログレコードの音と違って、まったくノイズが無くクリアなのです。
本当にデジタル技術を勉強しなければ、オーディオの世界では「置いて行かれる!」という感じがしました。
手っ取り早く勉強するにはマイコンを購入するのが1番早そうだと思いましたが、いかんせん値段が高いので購入するには、それなりの決心がいりました。

日記(1)

私がパソコンを始めて知ったのは、1975年前後だったと記憶しています。
当時、オーディオメーカーの営業マンをしており、東京の秋葉原営業所に勤務していた関係で、毎日秋葉原の各ショップを訪問していました。
ある日、確か佐伯無線の電卓コーナーだったと思いますが、見慣れない商品がガラスケースの中に展示してありました。
顔見知りの店員さんに「これは何だ」と聞くと「コンピュータだ」という返事が返ってきました。
それまでのコンピュータのイメージは、大手企業のビルの一室全部を占領し、あたかも神殿にかしずくように技術者の人達が操作をしている、巨大な訳のわからないマシンといった感じでした。
それが、20cm位のみすぼらしい(本当にみすぼらしかった)ダンボールで作ったパッケージ箱に入れてある、1個の比較的大きい「LSI」がコンピュータだと言われても信じられないのは無理もありません。
これは、インテル社の8ビットマイクロコンピュータ「8008」だったのです。インテルの8ビットマイコンであれば「8080」だろうとおっしゃる方もおられるかも知れませんが、実は「8080」の前に「8008」があったのです。
店員さんに頼んで、ガラスケースの中からパッケージを出してもらって見たのですが、マニュアルは数ページしかないペラペラ、それもすべて英文で訳がわかりません。
「これでコンピュータなの」と店員さんに聞くと、当然店員さんも知識がありませんから、「仕入れ担当者から、そう言われているよ。俺も判らないけど、もう5セット売れたよ」との話です。当時の大型コンピュータメーカーの人達が買いに来ていたんですね。
価格は10万円くらいしたと思います。CPUである8ビットマイクロコンピュータ「8008」が1個入っているだけのパッケージがですよ。
当時の私の給料がだいたい12万円くらいだったと思いますので、冗談じゃなく、すごく高価なものでした。買いに来ていた大型コンピュータメーカーの人達も、多分会社経費で購入していたんでしょう。
ただ、このインテル社の8ビットマイクロコンピュータ「8008」は、「こんなものがコンピュータ??」と私に強い印象を与えたのは事実です。